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elder-alliance.org > 聖女の箱庭で > ダ・カーポ
いばらの森。
作者は、須加星こと春日せい子。
宮廷社コスモス文庫の新作のひとつ。
発売されて、その瞬間にリリアン女学園高等部全体へと広まった。
聞くところによると、“リリアンの生徒・大絶賛!”という売り出し文句を付けた駅前の書店が、 わずか数日の間に、4桁に迫る売り上げ部数を記録したとも伝えられる。
実際、ここ数日で没収せざるを得なかった持ち物の大半は、この小説である。
この小説のモデルと勘違いされた3年生の佐藤聖と、転出した久保栞。
彼女たちには、大変申し訳ないことをした。
コスモス文庫のWebページを見ながら、彼女はひとつの罪を自覚し、その償いを考えた。
長崎の修道院。
クリスマスまで、あと数日と迫った日。
彼女は、速達便の包みを一つ受け取った。
差出人は、上村佐織。一年ほど前までお世話になっていた、リリアン女学園の理事長。
中に入っていたのは、一枚のカードと、一冊の小説。
小説のタイトルは、いばらの森。
カードに書かれていたのは、理事長のサインと理事長室への電話番号、そして一言。
奇跡を信じたければ、連絡をちょうだい、と。
宮廷社の編集部。
彼女は、ひっきりなしにかかってくる電話に、いちいち応対していた。
また、須加星のモデルについての問い合わせの電話だ。
どうせ、リリアンの学生が、須加星=『佐藤聖』という誤った説を確認するに違いないのだ。
しかし、その電話だけは違っていた。
その声は、若い女の子の声ではなく、老婆の声。と言っても、一本筋の通った美しい声である。
電話先の老婆の名前としゃべり方は、なぜか「いばらの森」のカホリのような印象をもつ。
そして、電話先の彼女は、彼に告げる。
「ところで、そちらに、須加星――春日せい子さまはいらっしゃいますでしょうか?」
薔薇の館。
彼女は、小笠原祥子の妹である福沢祐巳と一緒に、玄関先へと向かっていた。
理事長のご友人を、お聖堂まで丁重にお連れするようにと、直接言われている。
理事長からの直接のお達しであるからには、断ることも忘れることもできまい。
玄関先にて、明らかにリリアンの生徒ではない、しかしリリアン特有の雰囲気をまとったひとりの女性を発見する。
祐巳ちゃんを薔薇の館に帰してから、彼女はその女性のそばへと向かう。
「ごきげんよう」
そして、お互いに名前を交わす。女性の名前は、春日せい子というらしい。
その女性は、しかし彼女の名前を知っていた。
「ごめんなさいね、私の小説が原因であなたに迷惑をかけてしまって」
なるほど、か“すが・せい”こ、か。
似た名前と似た境遇を持つ私は、世界一格好いいこのおばあさんのように、生きることができるだろうか。
彼女は、エスコートしている相手が自分の先輩であることを、強く誇りに思った。
お聖堂。
彼女は、西洋人形のように美しい生徒に連れられて、その入り口まで足を運んだ。
仕事場であり応接間である理事長室ではなく、外からの客を受け入れづらいこの場所を佐織が選んだのはなぜか。
『いばらの森』の比喩なのか。昔を再現しようとでも言うのか。
それとも――。
「では、ドアを開けますね」
聖さんの声に思考を中断されて、彼女はドアの先を見る。
そこには、2人のシスターが、こちらを見ていた。
過去と現在を同時に再現したような、そんな錯覚。
「……栞!?」
「ごきげんよう、聖」
聖さんと、若いシスターの姿を借りて、過去の時間が動き出す。
「ごきげんよう、せい子。お久しぶりね」
そして、現在の時間。
「ごきげんよう、佐織」
数十年の時を越えて。
死んでいたはずの、一番愛していた少女との再会を、彼女は遂げる。
ダカーポ(D.C.)という音楽記号があります。
意味は、最初に戻れ。
リフレインする小さな世界の、リフレインする小さな物語。
ありえないはずの、3度目のはじまりは、奇跡の起きるクリスマスが似合う。
……な~んて、な。